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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens
「あッ」
おどろき騒ぐ人々、それを尻目に、宇佐川鉄馬は声を絞りました。
「えッ、寄るな寄るな。腹を切ってやるのが、せめてもの志だ。手一杯に働けば一人や二人は斬れたが――」
「待て、待て、鉄馬」
縁側の大坪石見の頭には、咄嗟に隠された娘の行方の事が閃いたのです。
「その代り、俺が死んでしまえば、浜路は誰も気の付かぬところで飢死だぞ。この鉄馬という近い身寄りがありながら、大坪家の跡取りにも、娘の婿にも考えなかった罰だ。へッ、へッ、へッ、へッ」
凄惨な血の笑いが頬にこびり付いて、そのまま死の色が上へ刷かれて行くのです。あたりは次第に暗くなりました。
「鉄馬、それは罪が深いぞ――鉄馬、頼むから、浜路のいる場所を教えてくれ」
縁側から跣足のまま飛降りて、大坪石見は生垣越しに、死に行く甥に声を掛けました。
「へッ、へッ、へッ、親も親なら、娘も娘だ――思い知るがいい」
「鉄馬」
「十何年間冷飯を食わして、さんざんコキ使いながら、それで恩を施したつもりでいるんだろう。雇人ならとうに飛出している」
「鉄馬」
「見るがいい。浜路はどうせ、この俺と一緒に死ぬのだ。いや、俺よりおくれても、一日とは生き伸びまい。