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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens
「風呂から帰って声を掛けたとき、返事がなかったのか」
「よく眠っているべえと思っただよ」
「そのとき雨戸は閉っていたのかい」
「私はお勝手から入ったから、御新造さんの雨戸は知らねえよ」
それでは何にもなりません。
「日常、ここへ出入りするのはどんな人たちだ」
「お隣の皆次さんと――これは紙屋さんだよ。地主の寅吉さんと、庵室の鉄童さん、それから米屋の兼松旦那、もっとも米屋の旦那は滅多に来ねえだよ」
「それっきりか」
「もう一人、御浪人の浅川団七郎とかいう人がときどき来るが、おらは後ろ姿しか知らねえだよ」
「よしよし、そんな事でたくさんだろう」
平次はそれ以上を聴こうともしません。
「いちばん繁々通うのは誰だい」
ガラッ八は後ろから口を出しました。
「地主の寅吉とかいう男だ。訊かなくたって解っているよ」
平次は一番先に寅吉を挙げた下女の言葉の調子から、そのくらいのことは判断している様子です。
「お小夜が殺された晩、誰も来なかったかい」
とガラッ八。
「地主の寅吉旦那が来ただよ、話がこんがらかった様子で、御新造さんと何か言い合っていただが――おらは御新造さんにせき立てられて、表の湯屋へ行ってしまったから、どう納まったか後は知らねえ」