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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens

Aozora Bunko

「それはどういうわけでしょう、親分さん」

兼松は縁側へにじり上がっておりました。平次の言葉には何かしら容易ならぬものがあります。

「驚いちゃいけないよ、――あの鉄童というのは男じゃない」

「えッ」

「世間体をはばかって男にしておいたんだろう。話の調子も、身体の様子も、間違いもなく男だが、きのう庵室の裏の井戸端で洗濯をしているのを見ると、盥の前にキチンと坐っている。男なら盥を跨いでやるところだ。不思議でたまらないから柄杓か茶碗を貸してくれというと、チョコチョコと刻み足に駆け出して、草履を内輪に脱いだ」

「…………」

「声も男にしては細いし、よく気をつけて見ると、喉仏が見えない」

平次の言葉は争う余地もありません。

「そんな事が、――そんな馬鹿な事が――」

兼松はゴクリと固唾を呑みました。恐ろしい幻滅に直面して、しばらくは分別を纏め兼ねた様子です。

「お前さんの信心にお節介をするわけじゃないが、こんな事を隠しておく方が罪が深いだろう。あっしは唯の岡っ引だから、相手に遠慮はしていられない。まして、寺社のお係り外の、いわば潜りのお宗旨は、気の毒だがいちいち庇っちゃいられないよ」