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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens

Aozora Bunko

「その水は」

「幸い晩の仕度は済んだ後だったが、お仕事に使ったり、私なんかは喉が渇いて二杯も三杯も呑んだり」

お留はさすがに胸が悪そうにするのでした。

「見付けたのは?」

「二度目か三度目に水を汲んだとき、釣瓶に障るものがあったんで、気が付いたんですって。小僧の定吉ですよ。もっともそのとき家の中では、坊っちゃんが見えなくなって大騒動だったから、定吉ももしやと思ったんでしょう」

「息を吹返す見込みはなかったのかい」

「一刻(二時間)も前に落ちた様子ですもの、助かる道理はありません」

「坊っちゃんが死んだ方がいいと思っているのは誰と誰だい」

「それはね、八五郎親分」

ガラ留もさすがにこれは言い兼ねました。が、何かこの家の中に、よからぬ空気のあることだけは確かです。

八五郎は岡っ引本能に操られるように、もういちど井戸側を覗いてみる気になりました。お勝手口から庇続きに五六間行ったところ、ずいぶん不便な場所ですが、お濠や下水の差し水を嫌って、わざとこんなところへ掘ったのでしょう。

「おや!」

八五郎は愕然としました。今朝までなかったはずの手頃な石が一つ、土の付いたまま井戸側の横の方に置いてあるのです。