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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens

Aozora Bunko

「番頭さんが見えないようだが――」

ガラッ八はフトそんな事に気が付きました。喜八の姿はどこにも見えなかったのです。

「昨夜、危うく殺されるところでしたよ」

そっと囁く者があります。ふり返ると喜八の女房のお留が、今日を晴と着飾りながら、なんとなく物々しい眼を光らせております。

「どうしたんだ」

「外で火事だというから、あわてて二階から降りると、滑って転げ落ちて、ひどくお尻を撲ったんです」

「そいつは危ない」

「当分動けそうもありませんよ。――火事は、誰の悪戯か裏でゴミを燃やしたんで、すぐ消えてしまいましたが、――ね、親分、怖いじゃありませんか。梯子段に油が塗ってあったんですよ」

「油?」

「え、行灯の皿を一杯空にするほど」

「時刻は?」

「亥刻半そこそこ、寝たばかりでした」

「その二階には誰と誰がいるんだ」

「私たち二人きりですよ――」

「フーム」

「尻餅をついたからよかったようなものの、逆さまに落ちたら一ぺんに死んでしまいますよ。私はもう、あの家にいるのが怖くてしようがない」

お留は日頃の陽気さを失って身を顫わせるのです。一人息子の万吉を殺し、小僧の定吉を殺した曲者は、こんどは万兵衛の甥で、店の支配をしている喜八の命を狙っているのでしょう。