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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens

Aozora Bunko

「呆れた野郎だ」

二人は橋を渡って、御船手屋敷の方へ少し歩いた時。

「あッ、危ねエ、気を付けやがれ、間抜け奴ッ」

飛んで来て、ドカンと突き当りそうにして、平次にかわされて、クルリと一と廻りした男、八五郎の前に踏止まって遠慮のないのを張り上げたのです。

「何をッ、そっちから突っかかって来たじゃないか」

「八、放っておけ、空き腹に喧嘩は毒だ」

平次は二人の間に割って入りました。

「あッ、銭形の親分」

「なんだ。新堀の鳶頭じゃないか」

革袢纏を着た、中年輩の男、年始廻りにしては、少しあわてた恰好で、照れ隠しに冷汗を拭いております。

「相済みません。少しあわてたもんで、ツイ向う見ずにポンポンとやる癖が出ちゃって、へッ、へッ」

「恐ろしい勢いだったぜ。火事はどこだい。煙も見えないようだが」

「からかっちゃいけません、ね親分。ここでお目にかかったのは、ちょうどいい塩梅だ。ちょいと覗いてやって下さい。大変な騒ぎが始まったんで」

「何が始まったんだ。喧嘩じゃあるまいね。夫婦喧嘩の仲裁なんざ、御免蒙るよ」

「殺しですよ、親分」

「ヘエ、松の内から、気の短い奴があるじゃないか」

「殺されたのは、新堀の廻船問屋、三文字屋の大旦那久兵衛さんだ。