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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens
一生懸命さが言わせる処女の雄弁に言い捲られて、役人小者も顔を見合せるばかり、しばらくは、日頃用い慣れた権力を用いることさえ忘れました。
「ならぬならぬ」
「お願いでございます。処刑になる罪人には、今わの際に、たった一つだけは望みを叶えさせると承りました」
「えッ邪魔だッ、退かぬと力ずくで退かせるぞッ」
二三本の六尺棒が前後からお美乃の白無垢を押えました。
「たってならぬとおっしゃれば、ここで自害をいたします。せめて夫の先に死んで、死出三途の案内をいたしましょう」
お美乃は帯の間から用意の懐剣を取出すと、キラリと抜いて、我とわが胸に切っ尖を当てるのでした。一本の指でも加えたら、そのままズブリと突き刺して、白無垢を紅に染めるでしょう。竹矢来を取巻く見物は、高潮する劇的なシーンに酔って、時々ドッ、ドッと鬨の声をあげます。
そのうちに時刻は経ちました。裸馬に乗せられて、雁字がらめに縛られた小三郎は、この凄まじいお美乃の純情をすぐ眼の下に眺めながら、一言の口をきくことも許されず、ほうり落ちる涙を拭う術もなく、唇を噛み、身体を顫わせ、ただ男泣きに泣くばかりでした。