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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens
「お願い、お願い」
竹矢来の外から必死と叫ぶお美乃の声も涸れ果てました。
「お美乃さん、私は嬉しい」
磔刑柱の上から、目隠しをされたまま、小三郎はわずかに声を張り上げます。
「小三郎さん」
「この小三郎が下手人でないことは、お美乃さんだけはよく知っている。――あの人に逢ったら、そう言って下さい」
「小三郎さん、お願いだから、言って下さい。みんな言って下さい」
しかしそれは無駄な努力でした。時刻が迫ると、役人は役目の落度になります。
「それッ」
合図をすると、二本の錆槍が、小三郎の胸のあたりでピタリと交されました。一瞬の間、万事終るでしょう。
「小三郎さん」
ドッと動揺み打つ群集の声に呑まれて、お美乃のか弱い声ももう聞えません。あなやと思う時でした。
「待った。――その処刑待った」
「御赦免状だぞッ」
平次と八五郎と浪五郎は、大波のように揺れる群集の中へ、真一文字に飛び込んで来たのでした。
*
幾松はその日のうちに主殺しの下手人として、島吉に縛られました。安宅のおえのの家から三十両の金が、幾松の財布に入ったまま現われたのと、おえのに毒酒を持って行ったのが、見知り人があって幾松と知れ、主人久兵衛殺しまで幾松の仕業とわかったのです。