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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens
に惹かれて、お小遣を溜めては、根気よく赤本の探偵小説を読んだことである。
その一面に私は、硯友社の作品のもろもろ、例えば尾崎紅葉の『不言不語』とか広津柳浪の『河内屋』とか、幸田露伴の『五重塔』に夢中になり、『水滸伝』や『南総里見八犬伝』に寝食を忘れたのは、なんという浮気な文学少年であったことであろう。
やや長じて私は、正岡子規の俳句運動に傾倒して、下手な俳句を捻ったり、与謝野鉄幹の新詩社運動に呼応する積りで、石川啄木らと共に、幾つかの歌を作ったこともあったはずである。でも私は散文的で濫読家で、詩にも歌にも俳句にも没頭し切れず全身的な注意と情熱で小説へ還って行ったのは已むを得ないことであった。
一方では矢張り、探偵小説への情熱が醒め切れず、泉鏡花の『活人形』から、江見水蔭の『女の顔切り』、小栗風葉の『黒装束』と、文芸作品の中から、探偵的なものに興味を引かれて行ったのはまことに前世の約束的因果事である。
一高の入学試験を受けるとき、私は四月から七月上旬まで三ヶ月半の徹夜をした。全く眠くないわけではない、帯も解かずに机に齧り付いて一と晩を過ごし、ウツラウツラとしてまた勉強を始めるのである。