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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens
鷹揚にうなずくと、頬のあたりに淀んだ持前の愛嬌が、戸迷いをしたようにスーッと消えます。
「とんだことでしたね。――ところで、殺された甥御の梅吉さんとかが、なんだって囲いの中へ入っていたんでしょう」
平次はさっそく事務的な調子になります。
「さア、そいつはこの私にも解らない」
「若旦那の幾太郎さんは、どこへ行きなすったんでしょう」
「気の毒だが、そいつも私には解らない。そんな事は奉公人達が思いの外知っているものだが――親分の前でそんな指図がましい事を言うのも変だね」
こんどは三郎兵衛の頬に、本当の微笑が浮びました。大町人らしい柔かい風格です。
「それじゃ囲いの中を見せて貰いましょうか」
平次はガラッ八に眼で合図して、番頭の佐助に案内されて奥の方に通りました。番頭の佐助は六十を四つ五つ越したらしい、頽然たる老人で、腰の曲った、皺だらけな、――一生を帳場格子の中で暮して、算盤以外の事は、あまり興味を持っていないといった人柄でした。
「ここでございますよ、親分」
佐助が指したのは、店から奥へ通う廊下の中ほどから、少しばかり右へ入った土蔵の庇合いで、そこへ急造したらしい、縁側付の六畳ほどの部屋が、初夏の明るい陽に、まざまざと照らされております。