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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens
「お前さんは?」
「お嬢さんのお美乃さんですよ」
番頭の市助が代って答えました。
「そうか、――お気の毒な事だね。一人残されちゃさぞ困るだろう」
「…………」
お美乃は黙って涙を拭きました。そんなに綺麗というほどではありませんが、素直に清らかに育っているらしく、見よげな娘です。
「ところで、お前に訊いたら一番よく解るだろう。父親が平常誰かのことをひどく言ってはいなかったか」
「いえ」
お美乃は言下に応えましたが、その後でひとわたり一座の者の顔を、そっと見渡しました。
「跡取りは決っているだろうね、番頭さん」
「へえー、この正月の末には、祝言をするはずで、その仕度も大方できております」
「小三郎とお美乃とだね」
「ヘエ――」
「それは気の毒だね」
若い二人を見比べて、平次もツイ滅入った心持になります。
昼を少し廻った陽が縁側から入って、六畳の部屋がカッと明るいのも、妙に物淋しさを誘います。
「縁側の雨戸は開いていたんだね、番頭さん」
「ヘエー、内から桟をおろしてあるはずですが、不思議に雨戸が一枚開いていたそうです。戸を閉め忘れるなどということのない御主人ですが」
「曲者は主人に戸を開けさして入ったというわけだな」