Japanische Klassiker mit Furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Lesen Sie 伸子 (のぶこ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 232.543 Zeichen · 466 Bildschirme
伸子は一里半の山路をずぶ濡れで下った。
山には秋が早く来て、夏の終りらしい豪雨がその日から屡々あった。
「ほう! こりゃあしどい!」
合羽をかぶって、番頭が飛び込んで来た。
「――……どうも近年にない荒れでございますね、全く番頭泣かせです」
下の川が水嵩を増し、凄じい響で流れた。昼頃から雨を衝いて、頻りに人声が右往左往した。縁側の雨戸のすきから覗くと、蓑をつけた人足が瀬の勢いで上から流れてくる石をよけに働いていた。
大雨に暗く降りこめられるのも、伸子にとっては変ったおもむきであった。雨戸一重うらの崖で、熊笹に雨の飛沫く音がした。量の殖えた温泉がごくごくむせんで筧を走る音。雨の中に、湯の香がいつもより強くただよった。子供の時分、夏の嵐を踏台に乗って、無双窓から熱心に眺めた伸子は、懐しくそんなことを思い出したりした。
佃はそのような一日、物懶げに財布を出して、机のところで銭勘定をしたり、昼寝をしたりした。伸子は、
「何かして遊びましょうよ」
と夫をうながした。
「折角楽しみに来たんだから、まあできるだけ愉快にした方がいいわ」
すると、佃は咎めるような眼付で伸子を眺め、ききかえした。