Japanische Klassiker mit Furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Lesen Sie 伸子 (のぶこ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 232.543 Zeichen · 466 Bildschirme
五
伸子には、夫をつれて来て、この悦びや鮮やかな自然の印象を分ちたい気持が起らなかった。彼女の気持は逆であった。彼女は、この山々を、この矮樹林を、自分だけで眺められるからこそ、嬉しいのであった。傍から誰にも妨げられず、心全面で眺め、味い、感覚する、この快さこそ、実に彼女に、久しく失っていた自由の蘇生を感じさせるものなのであった。
五
家じゅうに鏡はたった一つあるきりであった。水銀に罅の入った古い掛鏡が、流しの横の柱に懸っていた。田舎へ来てから、伸子は毎朝顔を洗う時、気をつけてその鏡を覗いた。日により、或は光線によって、起きぬけの額がすらりと晴れて見えると、伸子はその日一日、正しい心で暮せる瑞相のような喜びを感じた。何の工合か、陰翳が濃く現れていると、暫く陰気になった。彼女はそこを幾度もこすって、もう一生このしわは、つききりなのだろうかと思った。
祖母は女中と、おとよさんと云う、もとは他人だが今は遠い親類のようになった婦人と、三人で暮していた。伸子は毎日野天に出て、祖母と二人で庭樹の刈込みをした。柊や生垣の檜葉などが、春の芽をがむしゃらに延していた。冬越ししてもさもさになった野馬の毛を刈るように、それらに手を入れるのだ。