Japanische Klassiker mit Furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Lesen Sie 伸子 (のぶこ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 232.543 Zeichen · 466 Bildschirme
六
顔はいかにも沢山だ。それがかさなり合い、帽子や外套の色にまぎれて、とても一つ一つ、近眼の彼女には見分けられない。そのうち、迎えに出た方、出られた方、互に相手を見つけたと見え、嬉しそうにオーイ、オーイと叫んで帽子を振る男や、紋付の羽織でこちらから辞儀をする婦人がある。船が大きいので、並んだ船客の顔は小さく、とりこめられたように見えた。伸子は悲しくなり、
「お見えになって? お見えになって?」
と、度々父に訊いた。
「――こんなごたごたの中にいちゃあ、向うからも見にくい、少しすいたところへ出よう」
彼らは、前へ前へと押す人なだれをよけて、税関の倉庫近く立った。視ていると、上甲板から短い段を降りて、船首の中甲板へ出て来る一人の男がある。黒い外套――山高帽。伸子は覚えず体ごと右手をあげ、頭の上で熱心に振り動かしながら、父に告げた。
「わかってよ、父様! あすこ、あの黒いの」
彼も帽子を脱って、彼らに向い、ゆるやかに大きく打ち振った。更に強く、更に心をこめて手を振りながら、伸子は感動でぞっとし、涙を浮べた。
六
自動車が、石垣について坂の角を曲った。父と佃との間に挾まって揺られながら、伸子は家が近づくにつれ、深まる懸念を感じた。