Japanische Klassiker mit Furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Lesen Sie 伸子 (のぶこ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 232.543 Zeichen · 466 Bildschirme
伸子は次第に辛抱しきれなくなった。彼女は低い、ひしゃげたような声で云った。
「それをこっちへ頂戴――お願いだから……」
彼女はそう云いながら手をのばした。
「…………」
佃は、蒲団から出して聖書をもっている手の拇指がまむしになるほど力を入れてそれを持ちなおした。伸子は荒々しい心持を制せられなくなった。
「――頂戴」
彼はよこすまいとする。
「頂戴」
ああ、自分は何をしようとするのか。佃の体に悪い。恐ろしいことになるかもしれない。恐ろしいことになればいいのだ、一思いに! 一思いに! 佃は蒼白な顔で伸子を睨み据えたまま、手を上げたり下げたり、渡すまいとする。伸子はそれを本気で追いまわした。追いまわすうちに、伸子は、自分らがこわくなり、涙をぼたぼたこぼした。
「頂戴って云うのに! くださりさえすりゃ何もありゃしないじゃないの!」
奪いとった聖書を伸子は、寝台の下にたたきこんだ。彼らは二人とも泣いた。
八
二月下旬に、佃の健康は、学校へ出勤しないこと、朝おそくまで寝台にいること、夜外出できないことぐらいで、殆ど平常に復した。
冬枯の庭はいつか潤い、こまかに木の枝などを眺めると、仄かな艶や芽のふくらみが優しい早春を感じさせる日であった。