Japanische Klassiker mit Furigana
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ならしげざっぴつ
小出楢重随筆集
小出 楢重
Lesen Sie 小出楢重随筆集 (ならしげざっぴつ) von 小出 楢重 (こいでならしげ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 334.351 Zeichen · 657 Bildschirme
蝿が随分たかりました。
M君の店の向いが氷屋でした。M君は毎日昼になると氷水を注文し、自分で揚げたテンプラを自分でたべました。よく芸術家が自分の芸術は自分だけが味わうべきものだといって、作品を皆押入れへ積んでおくようなものであります。
あまり毎日テンプラと氷をたべたので、とうとう、M君は腸カタルを起こして寝てしまいました。ようやく全快して再び冷めたる山を築いてみましたが、とうてい沢正の芝居を五等席から覗いているぐらいの興趣すらも起こらないのでした。
悪い事は重なるものです。ある晩もう店をしまうつもりで、ふと煮立った油の鍋を両手で持ち上げた時どうしたことか柵にあった牛乳ビンが真逆様に油の中へ落ち込んだのであります。M君は両手に大火傷してまたもや寝込みました。そこでテンプラ屋は妻君の計算通りの答がちゃんと現れまして、ちょうど一カ月で棒を折ってしまいました。
以来M君は何物かを拾うべき体裁で、毎朝家を出まして町内の薬屋の店へ腰をおろします。ここで同志集まって何するともなく往来を眺めたり、ちょっと古新聞へ役者の似顔を描いてみたりして、この世と彼の世帯の辛さから、暫時休憩しているのでありました。