Japanische Klassiker mit Furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Lesen Sie 伸子 (のぶこ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 232.543 Zeichen · 466 Bildschirme
大きな、暖かい、重たい手であった。彼は、何も知らず眠りつづけた。
和一郎が帰ってしまうと、森閑とした生活が戻って来た。伸子は里心づいた。夕方、村に、焦臭い靄が低くこめる。山裾の町の電燈が、点々と燦き出すのを、広い耕地越しに縁側に立って眺める。東京の街々を包んでいるだろう雑沓、押し合い、けたたましく交通機関が右往左往する光景を想うと、そこに温かい人間の息と、生活の犇きのあるのを感じ、伸子は、今直ぐにでも俥を呼ばせたいようになった。彼女は、雨戸が閉り、すっかり夜になりきるまで、ひどく落着きを失った心持になって苦しむのであった。十燭の電燈が、黒びかりのする茶の間の板戸をテラテラ輝かすと、田舎の眠たい、永い宵が伸子を鎮めた。祖母、おとよさん、女中、めいめいの影を振り返りもせず、静かに糸を巻いたり、針の錆を落したりしている。彼らの上には、チクタク、チクタク……。
生命の流れの寂として充実した感じが、しばしば伸子を動かした。夫は、このような夜、彼の机に向って、一人何をしているであろうか。彼のところにも、この静寂がありそうな気がした。
伸子は、大きい小さい幾多の反動を経験したのち、だんだん、佃は佃として生きる場所があるのだ、と思うようになって来た。