Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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のぶこ

伸子

宮本 百合子

Lesen Sie 伸子 (のぶこ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 232.543 Zeichen · 466 Bildschirme

Aozora Bunko

伸子は老人が、心の中では、何事だろうと深くいぶかっているのを感じた。彼は、遠慮から、それを口に出さないだけなのだ。伸子は、それを知らないふりで出かけるのを、辛く感じた。

「……帰るのがきっとおそくなりますから、どうぞお先へおよっていらして下さい」

伸子は、自分達の部屋へ来、衣桁にかけて置いた羽織に再び手を通した。戸棚から毛織のコートを出した。手袋をはめてしまうまで、伸子はわざと時間をかけるようにして夫を心待ちした。老人を、謂わばごまかして行くことも、くたびれているのにまた電車で一人ぼっち行かなければならないことも、その先にある用件も、彼女をしょげさせた。彼女は、きっと佃がこちらの部屋に来て、出かけるまえに、一言或は一目、彼女を励ましてくれるだろう、と期待していたのであった。襟巻をするばかりになって、伸子は部屋の真中に立ち澱んだ。佃は、老父に内証話をすると思われない用心からか、いくら待っても来る様子がなかった。伸子は、

「一寸」

と、高く夫を呼んだ。

「――電車の切符はどこ?」

彼女の願い通りに夫はこちらへ来ず、八畳にいたまま答えた。

「外套の、いつものポケットにあるでしょう」