Japanische Klassiker mit Furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Lesen Sie 伸子 (のぶこ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 232.543 Zeichen · 466 Bildschirme
最後に、せめて一本互の思い出のためによい手紙を送りたい。伸子はある晩、追懐の感動にいっぱいになって机に向った。紙を展べ、ペンを執った。が、最初の一字を書こうとして気がつくと、何事であろう、いつの間にか感情の扉はぴたりと閉ってしまっている。何から書くのか、何を書いても、下らない、索漠とした空虚な言葉としか響かないように感じられた。佃に対する小さな感謝、真心からのわかれの言葉、文字に書くとそれらは皆、嘘のような、わざとらしい感じを相手に与えそうなおそればかり感じられた。逆に嘗て自分が佃に向って云った数々の憎らしい言葉、毒々しい言葉が、次から次へ驚くべき現実性をもって甦って来た。それに報いて答えた彼の冷淡そうな皮肉、醜い自暴自棄の言葉が、その時の顔つき目つきと一緒にこの鼓膜に今聞くようにまざまざ響いて来る。――伸子は夜の燈の下で、恐怖をもって言葉の生きていることを感じた。人間によって云われた言葉は、きっと云われただけには生きる。憤りにまかせ、怨みにまかせ、互の云い合った言葉が、今は互を裂く威力をあらわしているのではないか?
――伸子は一字も書き得なかった書簡箋を、思い沈みながら丁寧に細かく引き裂いた。