Japanische Klassiker mit Furigana
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しんきだんクラブ
奇談クラブ(全)
野村 胡堂
Lesen Sie 奇談クラブ(全) (しんきだんクラブ) von 野村 胡堂 (のむらこどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 104.139 Zeichen · 208 Bildschirme
或る晩、カフェー・エロスで散々遊んだ二人が、銀座の往来へ出たのはやがて九時半頃だったでしょう。渋谷のアパートへ帰る礼子を、有楽町から省線電車に乗せて、私だけ一人、フト思い出すことがあって、日本ビルディングの事務所へ引き返して見ました。
八階でエレベーターを降りて、自分の事務室の方へ一歩踏み出した私は、悚然として、其処へ立ち止まってしまったのです。
「あッ」
驚いた事に、ツイ今しがた有楽町駅から省線電車に乗るところまで見定めて来た礼子が、私の事務室の扉を開けて、いとも静かに出て来たのです。
これが驚かずに居られましょうか。
私は釘付けになったように、物をも言わずに見て居ると早くも私の顔を見た礼子は、エレベーターに乗るのを止して、その後ろの階子を登ると、差掛屋根の扉を押して、サッと屋上庭園の闇へ姿を隠してしまったのです。
「香川さん香川さん」
呼んで見ましたが、元より返事をする筈もありません。私も一緒に――と一と足屋上庭園の砂利を踏みましたが、思い直して差掛屋根の中へ戻ると、扉を閉めて、幸い鍵穴に差し込んだ儘になって居る鍵をピンと廻してしまいました。
いつぞやの晩のように、あれで礼子は完全に屋上庭園の捕虜になってしまった訳です。