Japanische Klassiker mit Furigana
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いきふどう
橘外男ワンダーランド 怪談・怪奇篇
橘 外男
Lesen Sie 橘外男ワンダーランド 怪談・怪奇篇 (いきふどう) von 橘 外男 (たちばなそとお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 198.400 Zeichen · 387 Bildschirme
おそらく夫を失って遺児のあの少年の養育に専念するためであったろうと想像すると、私にはこの清らかな音楽家の心事に心から共鳴感の叫べるような、なんとも言えぬ尊敬の念の湧き起ってくるのを覚えずにはいられなかった。
そして今までは少しも脳裡になかった日野涼子という一人の音楽家の名前が、私にはこの時ほど懐かしく親しみ深いものに感じられたことはなかったのであった。
凝乎と頭を垂れて私は鉄柵越しにこの不思議な懐かしさを湧かせてくれる、しかも見たことも逢ったこともない薄命な天才の冥福を祈っていたが、何か墓前に花でも手向けて上げようかと考えた。
が生憎今になってそんなことに気がついたものだから、私は別段なんの用意とてもして来てはいなかった。あの長い石段を降りて麓の百姓家まで行けば、何か有合せの花ぐらいはあるかも知れぬと思ったが、別段親兄弟でもない人にそれほどまでに手数をするのも面倒臭かったから、崖っ縁に枝を差しのべていた山百合と一緒に、その辺に咲いている野性の花をり取って来て、鉄柵を乗り越えて墓前に供えて置いた。そしてやがてまたいつもの通り私は断崖へ来て寝転んだが、花はお粗末であってもこうした縁もゆかりもない人の墓へでもお詣りをしてその人の冥福を祈っておいた後の気持というものは、何とも譬え難く清々しい爽やかなものであった