Japanische Klassiker mit Furigana
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ロザリオのくさり
ロザリオの鎖
永井 隆
Lesen Sie ロザリオの鎖 (ロザリオのくさり) von 永井 隆 (ながいたかし) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 107.351 Zeichen · 213 Bildschirme
君らは戦災に会ったことがないから、ぜいたく言ってるんだ。ぼくらはどん底だ。どん底から立ち上がる者だ。どん底の便所にスリッパがあるものか、どん底の庭にチューリップが咲くかい? どん底の労働者がきちんとネクタイを結んで何をする? どん底の家に洋服ダンスがきちんと並んどるものか! ぼくらは戦災者だ、どん底生活で満足だ。そもそも──」
「君、君」私は秋月君の言葉をさえぎっておいて、指先で耳たぶのくぼみをこすってみたら、まっくろなあかが落ちた。「君は私を描写しているのかね?」
「はっはゝゝゝゝ。いたかったですか?」
「まるで傷の上のかさぶたをはがれるようだ。全くそのとおりだよ。しかし……」
秋月君は指でなすびづけをつまみ上げて、ぽいと口の中に放りこんだ。なるほど私のほうがフォークもつまようじも添えて出していなかった。
「こういう手づかみも、やっぱり戦災者流ですよ。教養なき人々ならともかく、お互い文化人ですからなあ」
「そうだったねえ」
「この廃虚に全く新しい文化を造り出すのが私ら文化指導者の義務でした」
秋月君はみずから責めるもののごとく沈黙した。私はこの荒野にききょうだけが生えて、いちめんに紫の花を浮かべ、風のままに紫の波が天主堂の方へうち寄せていたら──と思ってみた。