Japanische Klassiker mit Furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Lesen Sie 伸子 (のぶこ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 232.543 Zeichen · 466 Bildschirme
如何に不意打ちにしろ、あれほど待っていた彼が一分でも早く着くなら、飛び立つほど嬉しい筈なのに――。いざとなって見ると、伸子は空想していたような歓喜が感じられないで、意外な思いがした。彼が到頭帰って来る――しかし見ないうちは心にある彼、その彼が帰って来るというのさえ、変に信じられぬ。伸子は、十五年昔のあの夏の暁方の光景を思い出した。五年ぶりで父が英国から帰朝するというので、八つの伸子は夜眠らなかった。その朝、吊ランプの下に鏡台を出して髪を結っている母の後で、団扇で蚊を追いながら、まるで口をきかない母が平常と違って、こわかった覚えがある。――伸子は今、その朝の、母の複雑な、妻としての感情が理解された。
桜木町行の電車はすいていた。彼らと向い合って、外国商会に勤めているらしい中年の道楽者らしい男と、三十二三の夫人、あと数人の男が乗り合せているばかりであった。電車はタタ、カタタと揺れて、暖かい日光に燦いている、東京と横浜とのあいだをつなぐ雑然とした風景のあいだを疾駆する。
佐々は、ポケットから小さいノオトを出して見ていた。暫くして伸子は訊いた。
「何時?」