Japanische Klassiker mit Furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Lesen Sie 伸子 (のぶこ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 232.543 Zeichen · 466 Bildschirme
母は、独り、二階の縁側で長椅子にいた。じっと団扇を胸のところにあて、軒さきから繁った梧桐の青い葉の照りの下に、沈んだように横わっている。伸子は裏階子から登ってゆき、黙ってそのそばに佇んだ。母も黙っている。よほどたってから、多計代は、娘の方を見ずに訊いた。
「もういいのかえ?」
「大抵いいらしいわ」
二人はそれぎり、また言葉をとぎらした。そうやっていてはきりがないので、伸子は、
「――じゃあ……」
と云った。多計代の顔に、引歪むような苦しげな表情があらわれた。それを見ると、伸子は自分も胸板を剥がれるような苦痛をおぼえた。
「……行ってまいります」
とてもほかの訣れの挨拶は出なかった。明らかに、今は涙を制しかねている母を、伸子は二目と見ていられなかった。彼女の、咳払いとも何か云おうとする前ぶれともとれる噎び声を後にし、どしどし階段を降りた。足に力を入れ、一歩一歩降りるとき自分の目からも涙がこぼれた。下に降りきると、暫く堪え難い心持で、彼女は手摺の柱に頭をすりつけて泣いた。別に暮すのは当然で、その上みんなが希望したことだのに、不思議なものだ。自分の育った家をいざ去るということは、このように悲しく辛く真実別離の感が魂を貫いた。