Japanische Klassiker mit Furigana
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のぶこ
伸子
宮本 百合子
Lesen Sie 伸子 (のぶこ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 232.543 Zeichen · 466 Bildschirme
執念深く、一日じゅう飽きず、そのようなことを思いつづけた。その癖、逃げるなら逃げる実行方法を計画するかと云えば、伸子の精神からは、健全な意志が腐れ落ちたような有様であった。彼女に決心というものは殆ど何一つできなかった。ただ思う、思う。彼女は夢のうちでさえ、そのように思い悩んでいるままの自分をみた。
その夏、伸子は、佃に連れられて彼の故郷に行っていた。二階を自分の部屋にしていたが、そこは二階と云ってもちゃんとした部屋ではなく、いわば屋根裏の物置であった。広い板の床の上に畳を五枚敷き並べ、彼女はその隅に机を置いて暮した。三尺に一間の小窓があり、そこから大樫の木の梢が見えた。その樫の木に終日油蝉が鳴いた。一面の青田で、日中は一ふきの風も動かぬ、もーっと水蒸気のかかった八月の暑さを、その蝉の声は更に堪え難くした。伸子は流れる汗を濡手拭にふきつつ、病的な根気でその日その日を送っていたのであった。
はからず、震災は伸子を、そのような意志喪失からひどい力でたたき出した。驚きが、先ず彼女をしっかりその足の上に立ち上らせた。次いで、普遍的な生活の建てなおしの意気が、彼女の心でも火をおこす鞴となった。