Japanische Klassiker mit Furigana
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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
Lesen Sie 娘煙術師 (むすめえんじゅつし) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 267.766 Zeichen · 530 Bildschirme
「もしこの芳香をたてつづけに、四半刻というものをきいていたならば俺はそれこそ色情狂になろう」山県紋也がこう思ったほどにもその匂いは催情的のものであった。そういう匂いを漂わせながら、なおも女はみつめていた。その女を蔽うているものといえば、黒塗り蒔絵の駕籠である。その駕籠を護っているものといえば、被衣をかぶった四人の老女と、覆面姿の四人の若武士と、脛を出した二人の駕籠舁きとである。そうしてそれらを見下ろしているのは、白けた晩い大輪の月で、燐のような光をこぼしている。
この一群をほかにしては人ッ子一人も通っていない。で、往来は空っぽであった。往来の片側に軒を並べて、無数の家々は立っていたが雨戸も窓もとざされているので、一筋の燈火さえ洩れて来ない。屋根ばかりを月光に化粧させて、地の上へ一列の家影を引いて、静まり返っているばかりである。この光景は幽鬼的といえる。そういう幽鬼的の光景を前にあたかも釘づけにでもされたかのように山県紋也は突っ立っていたが、それは動くことができないからであった。魅せられ麻痺されているからであった。
「匂いはいったいどこから来るのだ。