Japanische Klassiker mit Furigana
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いきふどう
橘外男ワンダーランド 怪談・怪奇篇
橘 外男
Lesen Sie 橘外男ワンダーランド 怪談・怪奇篇 (いきふどう) von 橘 外男 (たちばなそとお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 198.400 Zeichen · 387 Bildschirme
まるで石清水でもそこら中から湧き出そうな幽邃な肌寒い感じであった。
これが諸君にお話しようとするこの怪奇な物語の起った逗子の了雲寺の全貌であったが、これだけの構えをしている以上もちろん昔は相当に寺格の高い由緒ある寺であったろうが、今は見る陰もなく荒れ果てて一見廃寺としか思われぬ古寺であった。住持もいるのかいないのか、いつ来て見てもこのあたりは森閑として庫裡に人影一つ動いたこともない寂然さであった。ただ聞えてくるものとては遥かの相模灘から吹き上げてくる強い海風を受けて、物怪でも棲んでいそうなほど鬱蒼たる全山の高い梢が絶え間もなく飄々と哮え猛っているばかりであった。月の出た宵などにここを通ると、まるで山全体が真っ黒な怪物のように見えて、今にも頭の上から掩い被さってくるような気持がすると、私の宿をしていた百姓屋のお内儀さんなぞは、話をするだけでも恐ろしそうに首を竦めていた。
が、それはともかくとして、一体いつ頃から私がこういう世の中から棄て去られたような陰気な山寺の奥なぞに杖を曳き出したものであろうか。判然したことはもう覚えてもいなかったが、ちょうどその時分が結婚後間もなく胸の病を発してきた妻が、鎌倉の病院で亡ったばかりの頃で、私はたった一人で桜山の百姓家の離れ座敷を借りて味気ないその日その日を送り迎えていた