Classiques japonais avec furigana
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じろきちこうし
治郎吉格子 名作短編集(一)
吉川 英治
Lisez 治郎吉格子 名作短編集(一) (じろきちこうし) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 178 609 caractères · 362 écrans
ふと、吸っている煙草入れを見ると、それも鳥取の古市で名産としている漆革細工なので、
「もしも、貴方は鳥取じゃありませんか」
男は、砂利の中へ落していた火玉を煙管で掻き分けていたが、ひょいと、横に顔を上げて――
「なぜ?」
「でも、古市の漆革を持っておいでですから」
「ウ、これか……」と、煙草入れを見直して、
「こりゃ、四、五年前に、誰かの土産に貰ったのよ。……するとおめえは鳥取かい?」
「いいえ」
左次郎は自分が訊ね出したことに慌てて、
「私も鳥取ではございません……」
少し男の機嫌が悪いように見えたので、その話はそれなりにして、口を噤んだ。
だが、昼過ぎの仕事にも、かれの親切気は変りがない。
何かに、面倒を見通してくれた。
夕方も、
「おい、おれの分を少しやるから、勘定場へ持ってゆきねえ」
と、自分の竹箆を減らして、数の少ない左次郎の方へ足してくれる。
辛い仕事場が、左次郎には、一日ごとに楽しみになった。朝、砂利場への河岸で、男の雄大な体躯を見るのが、かれのその日を心強くする上に、なくてはならない物になった。
そんな風に、左次郎の心に少し余裕がついて来て、ちょうど十日目頃。