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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

が彼の一族に卑怯未練の、裏切り者が出たということが、彼の肩身を狭くして、爾来ずいぶん憂鬱なのであった。

幸い桂子が彼を支持し、浮藻が愛してくれるので、比較的ノンキにくらすことは出来たが。

それにもう一つ彼の心には、重い荷物が負わされていた。

連判状を持っていることである。

日野資朝卿の別館の、乱痴気さわぎの無礼講の夜、偶然手に入れた連判状で、はじめは彼らしいイタズラ心と、好奇心とからこっそり秘めて、誰にも明かさず持っていたのであるが、今回の騒動が起こってからは、その品物が非常に重大な、非常に大切な証拠品となり、武家方ではどうともして手に入れようと、苦心惨憺しているらしく、そういう噂も耳にはいった。

が、もしこの品が渡ろうものなら――武家方の手へ渡ろうものなら、著名な公卿や豪族が、六波羅や鎌倉の手によって、捕えられたり攻められたりして、一大騒動が起こらなければならない。

といって破って棄てることも出来ない。

宮方に対して申し訳ない。

事情を桂子へうち明けて、桂子の手へでも渡してしまったら、一番安心かとも思われたが、そうするには機会を失していた。

今回の事件の起こる前に、するならすべきものであった。