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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「そうさ、可哀そうに、贄だからなあ」

煙りが勢いを加えて来た。

臭気も勾いを強めて来た。

と、また範覚の声が聞こえた。

「贄持って来オ――、贄が足りねえ――ッ」

「オ――」

と、こっちからまた一人が云った、坊主あがりらしい円い頭の男が、ノッとばかりに立ち上がると、一匹の狐をひきずりながら、荒筵の前まで行き、狐を向こうの部屋へ投げた。

煙りの量が多くなり、臭気がひときわ濃くなった。

祈祷の声はなおも続き、振鈴の音もつづいて聞こえた。

と、不意に荒筵が、向こう側からかかげられ、金剛杖に身を縋らせた、金地院範覚がよろめき出た。

「たまらん、参った、オレ参った!」

そう云う声も息絶え絶えであった。

「鳴らんのだ、釜が、贄釜がよ! ……姥のご機嫌、それで斜めさ! ……姥のご機嫌もご機嫌だが、こっちのご機嫌だってナナメだあね。……同情してくれ、つもってもみてくれ! ……前七日、中七日、後七日で二十一日よ! ……今日が二十一日だ! ……二十一日のその間中、姥の調伏祈祷に殉じて、一切生物を断っていたばかりか、この洞窟から日の光の中へよ、一足も出ること出来なかったんだからなあ。