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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
猪小屋の内外
猪小屋の内外
猪小屋の中から子守唄の声が、ほそぼそとして聞こえて来た。
泣きそ、な泣きそ、和子よ和子よ、泣けばお山で猿も啼く。
小屋の中には早瀬がいた。
膝の上へ嬰児をのせ、それを揺すりながら歌っていた。
部屋の片隅にともっているのは、早瀬のこしらえた松明であった。
垂れ布の内側で眼をとじて、早瀬は草原に坐ったまま、物思いにふけっている。
眼をあけて見ると何んたる危険、蝮が嬰児に食い付こうとしている。
あわてて蝮の頭を撫で、
「このイタズラモノ何をするのだよ、赤ちゃんを虐めてはいけないよ。……さあさあおとなしく巣でお休み」
と云った。
すると蝮は懐中の中へ、すぐに体を引っ込ませた。
そこで早瀬は立ち上がり、殺されている嬰児の母親へ、別れを告げて歩き出した。
そうして的なしに歩いているうちに、夕暮れとなり夜となった。
そのうち道に迷ってしまった。
でもこの小屋へ辿りついた。
窓から射している月光で見れば、猟師が置いて行ったのであろう、獣油のはいっている壺などがあった。
で、彼女は松葉や枯れ草で、急ごしらえに松明をこしらえ、獣油にひたして火を点じた。燧石なども壺の脇に置いてあったので。