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わらわのはんせいがい
妾の半生涯
福田 英子
「妾の半生涯」東京堂、1904(明治37)年10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 64,051 字 · 122 页
十 絶縁の書
十 絶縁の書
ここにて朝鮮行の出船を待つほどに、ある日無名氏より「荷物濡れた東に帰れ」との電報あり。もし渡韓の際政府の注目甚だしく、大事発露の恐れありと認むる時は、誰よりなりとも「荷物濡れた」の暗号電報を発して、互いに警告すべしとは、かつて磯山らと約しおきたる所なりき。さては磯山の潜伏中大事発覚してかくは警戒し来れるにや、あるいは磯山自ら卑怯にも逃奔せし恥辱を糊塗せんために、かくは姑息の籌を運らして我らの行を妨げ、あわよくば縛に就かしめんと謀りしには非ざる乎と種々評議を凝せしかど、終に要領を得ず、東京に打電して重井に質さんか、出船の期の迫りし今日そもまた真意を知りがたからん、とかくは打ち棄てて顧みず、向かうべき方に進まんのみと、古井より他の壮士にこの旨を伝えしに、彼らの中には古井が磯山に代りしを忌むの風ありて議諧わず、やや不調和の気味ありければ、かかる人々は潔く帰東せしむべし、何ぞ多人数を要せん、われは万人に敵する利器を有せり、敢えて男子に譲らんやと、古井に同意を表して稲垣をば東京に帰らしめ、決死の壮士十数名を率いて渡韓する事に決しぬ。これにて妾も心安く、一日長崎の公園に遊びて有名なる丸山など見物し、帰途勧工場に入りて筆紙墨を買い調え、薄暮旅宿に帰りけるに、稲垣はあらずして、古井独り何か憂悶の体なりしが