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やまうらきよまろ
山浦清麿
吉川 英治
「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页
『会わせないというのかえ。――あ、あれは、鍛冶小屋の音だね。お前さんなんぞの取次ぎは待たないからいい。自分で勝手に会って来るよ』
家の横へ廻って、裏へ行こうとするので、
『あっ、いけません。――もしっ』
お次が、裸足で飛び降りて、彼女の前を遮った。
『なにさ? 出洒張って』
お寿々は、お次を突き飛ばして、小走りに駈け込んで行った。見ると、露地つづきの裏のすぐ彼方に、注連縄の張り廻してある黒い鍛冶小屋の入口がすぐあった。
仕事の権化となっている清麿には、彼女が、小屋へ這入って来たのも知らずにいた。お寿々は彼の姿をそこに見ると、くわっとして、いきなり、
『お前さん! ……。よくもわたしを、お忘れだね。いえさ。よくも、私の姿を見ながら、何日か木挽橋では、逃げましたね』
と、清麿の胸ぐらをつかんだ。
清麿は、驚くよりも、猶、仕事のうつつから醒めないで、
『え。……誰だ。おまえは』
『誰とは何さ』
甲だかく、お寿々は、泣き声をふくんで呶鳴った。
『シラを切るのもいい程におし。別所のお寿々を忘れて、お前さんは済むのかえ』
『あ……おう……お寿々か』
『さ! 話があるから、出ておいで』