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やまうらきよまろ
山浦清麿
吉川 英治
「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页
五
『粋狂? ……そう見えるか。江戸の人間には、そうも見えようなあ。おぬしのように、明日の日本が、何うなるかも知らず、飲んで、囈言吐ざいて、虫けらみたいに、生きている奴が大概だから』
『何。……何だと』
『まあ飲め』
屋台の裏で、空箱を腰掛けに、行火を挾んで二人は対い合っていたが、清麿は、重輔の今の一言に、さっと、冴えた顔から、鋭い眼をすえた。
五
彼が怒ったので、金子重輔は、
『では、虫螻と云った理を聞かしてやろう』
と、肱を張って云った。
今、日本は、開闢以来の危機にかかっている。
海の外を見ろ。支那を見ろ。
英、仏、露、など諸外国の虎視眈々と日本の隙間を窺っていることを考えてみたら慄然としようが。
だのに、江戸はこの頽廃ぶりだ。幕府は無能だ。――誰が、神国のこの危機を救うか。われわれはもう、腐えた幕府などはとうに見捨てている。
この時、これは神示だ。
われわれが、仰ぎまいらす御方は、一天の大君しかない。だのに、その御所の御衰微の様といったら何うか。
口にするのも勿体ない、涙がこぼれて云えない。
『……貴様、知っておるか』
金子重輔は、涕涙して暫く、口を緘んでしまった。