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やまうらきよまろ
山浦清麿
吉川 英治
「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页
二
――余りそう精をつめても、体の毒であろに』
体――母にそういわれると、真雄は、自分だけの体とは思えなかった。
『や、すみませんな。では、戴きましょう』
手桶の水で、ざっと、手を洗って、休み部屋へ、腰かけた。
『今、かかっている仕事は、誰方様のお刀じゃの』
『松代藩のお寺社奉行、山寺源太夫様の御注文でござります。他ならぬ柘植様のお口添えで、素人鍛冶のわたくしなどには、身に過ぎた御下命と、冥加に存じて、玉鋼から、吟味に吟味を致しておるのです』
『まあ、そうかの』
と、母は欣しそうに、歯の抜けた口に、雪菜の一茎を入れて、もぐもぐ唇をうごかしていたが、真雄の顔つきの好いのを見て、そっと云い出した。
『又かと、うるさく思わっしゃろが、弟の環のう、もう、養子先の家を出てしもうた事じゃに。……何とか、怺えて、もいちど家へ入れて下さらぬか。そなたも慥乎りした相鎚の打ち人がないと、常々、云い暮している折ではあるし……。真雄よ何うじゃな?』
二
長国寺の噂は、松代から、四、五里しかない赤岩村へは、すぐ聞えてきた。
それから間もなく、環が、養子先の長岡家から、飛出してしまったという噂が、大石村から、近郷に伝わった。