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やまうらきよまろ

山浦清麿

吉川 英治

「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页

青空文庫

火華氷柱

一

『疑い? ……それはわしの云った事にか』

『いや、自分の仕事に就て』

『どういう事か』

『時勢は、移ってゆく。武器もどしどし進んでゆく。兵術も洋式になる。――そうした世の中では三尺に足らない刀など、今に、進歩した砲術の前では、針ほどな役にも立たなくなるのではないでしょうか』

『……ウウム』と、重輔も、それは深く考え込んで居たが、軈て、

『そうだ、それは佐久間象山先生に聞け。象山先生のほかに、その答を明確に云ってくれる人はあるまい』

『あいにくと、てまえはまだ、信州へは行かれません』

『何、松代まで行く必要はない。先年から藩公に従いて、象山先生は江戸へ出ていらっしゃる』

『えっ、江戸に御在府でございますか』

『内密だが、自分も密かに、出入しておるから、日を見て、一度先生のお宅で会おう。猶、いろいろと話しもあるから』

と、他日を約して、その夜は別れた。

火華氷柱

一

西洋真伝兵学砲術教授所

表門に、看板がかけてあった。

木挽町五丁目の佐久間象山の江戸屋敷である。約束の日に、清麿はそこへ行った。

金子重輔は、先に来ていた。その日は、いつか見た姿とは変って、どこから見ても志士らしい侍の服装になっていた。