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やまうらきよまろ

山浦清麿

吉川 英治

「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页

青空文庫

五

手桶の柄杓をつかみ、氷を割って、水を口に含んだ。

常に持っている小さい紙包みを、顔の上に逆さにして、緑青の粉を、一口に仰飲った。

そして又、急いで、水桶から水を掬い、ぐいと飲みほした。青い粉末がすこし溶けて、唇を燐のように光らした。

『いつでも来い!』

大刀を横たえると、彼は、死へ向って、こう叫んだ。

――その時、表へ出て行ったお次が、あれっと、悲鳴をあげて、ばたばたっと、逃げ惑うような跫音を立てた。

五

『逃げることはないよっ。――もしっ、お次さん、お次さんてば』

彼女の開けた門から、途端に、そう云って駈けこんで来たのは、お寿々であった。

台所の露地から、走って出た清麿は、うぬと喚いて、出会いがしらに、刃を抜き浴びせた。

『――あッ、た、環さん』

その絶叫は、半、死へ心の行っていた清麿を、愕然とさせた。お寿々とは、夢にも思っていなかったのである。――環さん、遠い昔の名を呼ばれたのも、彼の胸をふかく衝いた。

『……だめ、だめ。……わたしを殺しては。……わたしは、報らせに来てあげたのだ。今夜、わたしの奉公しているお茶屋へ飲みに来た岡っ引から、ちらと聞いたので』