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やまうらきよまろ
山浦清麿
吉川 英治
「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页
四
年配は六十二、三。――然し、がっきとした体質で、壮年から田宮流の剣道、無辺無極流の鎗術、中島流の火術――とみな一派の師となるほどな腕があったという面影も今、偲ばれる。
で、邸内には、講堂もある、道場もある。
内蔵助は、その文武二つの床に、この数年、いかに教えられて来たか、知れなかった。
その上にも、今また、土蔵の中で、親しく巡り会うことのできた――無数の古人の師。
(ああ、ここはおれの、大蔵経の経蔵だ)
彼は、自分の多幸に、思わずそう云って、感謝した。
その間に、邸内の物置小屋を、少しばかり改築して、鞴をすえ、火土を築き、鍛冶道具も窪田清音が備えてくれた。
土蔵から、彼は、物置小屋へ移った。
然し、彼の人間には、知識の光りと、技倆の上達が、清音の眼にも分るほど付いて来た。
四
『内蔵助、ちょっと参れ』
『お召ですか』
と、彼は、清音の前へ呼ばれて来た。
今し方、客の酒井家の家臣たちが帰って、間もない後だった。
『近頃、夜は鍛たんようじゃな』
『はい』
『邸にも居らぬ事がままある。どこへ参るのか』
『はい』
『近所の酒屋その他へ、だいぶ借財もあるとの事だが、何でそのように、金費いが荒いのじゃ』