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やまうらきよまろ
山浦清麿
吉川 英治
「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页
四
『えっ、緑青を……?』
彼女もまだ、そこまで切迫した清麿の気持とは思っていなかったらしく、そう聞くと、真っ蒼になって、唇をふるわせた。
四
夜もすがら、木の葉雨がわらわらと、破れ廂を打つので、時折、眼がさめる。
しいんと壁が寒い。――十一月の中旬である。
寝床についてから間もなく、
とんとんとん――
表の門を叩く者がある。
清麿は、天井へ眼をひらいた。手はすぐ蒲団の下の刀へ行った。
『――はい』
茶の間に寝ていたお次が答えてしまったのである。……しまった! と思ったがもう間にあわない。
急いで、帯をしめて、お次は出て行った様子である。遂に来る日が来たのだ。ぜひがない。
覚悟は、日常にある。
万一捕まって、白洲に曳かれ、拷問の苦痛と、幕吏から恥辱をうけるのは堪え難い。――いや堪え難いのみでなく、生身の体だ、その苦痛に克ちきれなくなって、この口から、万一にも、勤王方の不利なこと一点でも洩らしたら愧死しても足りないことだ。
又、もう一つ彼の惧れたことは、大恩のある窪田清音の身に、禍のかかる事だった。それを避けるには、自分の「死」以外に安全な道はない。
清麿は、すぐ、台所へ走った。