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やまうらきよまろ

山浦清麿

吉川 英治

「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页

青空文庫

四

俄然、平常、直胤の一派を支持している者と、ひそかに、それへ反感を抱いている者との感情が、環の一投石に依って、露骨な波瀾をよび起したのであった。

そのうちに誰からともなく、

『あれは、山浦の舎弟だ』

と云う声が伝わったので、直胤一門は、

『何、真雄の弟だと?』

と、眼をみはり直して、愈※(二の字点、1-2-22)、事態は険悪な対立の相を呈した。

四

今の環は灼熱した鋼であった。

誰の言葉も、その赤い耳は刎ね返して、

『行り直さぬうちは』

と一歩も退かなかった。

『云い条は、それか』

と、中へ這入った世話人たちが云った。

『それだけです!』

純情な眸を光らして、環は猶、繰返した。

土気色な面をして、先刻から見ていた箕兵衛直胤は、

『お世話役、望みにまかせてやらっしゃい』

と、床几から云った。そして、

『今の刀を、その若者に持たせ、同じ鍔を、斬らせてみるがよう御座ろう』

と追け加えた。

世話人たちは、環へ詰め寄って、

『見事、斬るか』

と、糺した。

『斬る』

環は、昂然と、唇を噛んで答え、

『いざ!』

と、自分を叱咤するように、即座に、袴をくくり上げ、下緒を解いて、袖を片襷にからげた。