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やまうらきよまろ

山浦清麿

吉川 英治

「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页

青空文庫

『……はア』

『眠いのかっ』

『い、いえ』

『なんだその眼は。てめえの作る刀の未来も分るぞ、眼からして、もう赤鰯だ。――水を浴びて来いっ』

『へいっ』

清人は、深夜の井戸端へ駈け出して、氷の棘が生えている釣瓶縄を見ながら、真ッ裸になるのだった。

『おれも浴びる』

と、清麿も来て、仕事着をかなぐり捨てた。

肋骨の出ている細い肉体に、冬の風がふきつけた。清人は、吃驚して、

『師匠、と、とんでもない。……滅茶だ、そんなお体で』

『ばかあ云え。おれの体には、注連縄が張ってある』

『後生です……止めておくんなさい。神様へ向ってなさる行ならば私が、師匠の分も浴びておきますから』

『心配するな。実あ、てめえを叱りながら、おれも眠気に襲われて来たのだ』

笑って、彼も一緒に、釣瓶の水をざっと浴びた。

鑢かけして、相造りが終ると、焼入れにかかった。弟子に教えることは懇切だった。だが、清人は清人だけの才分しかなかった。何か、気に触れた時である。清麿は、彼の脳天から、雷鳴のように呶鳴った。

『止めちまえッ! 刀鍛冶はっ』

そして、いきなり蹴飛ばして、研桶の水を頭からぶッかけた。

外へ、転がり出した上、研ぐその水に、濡れ鼠になった清人は、もうほんとに、刀鍛冶は止めてしまおうと思ったのか――冬陽の日向へ立って、男泣きに泣いていた。