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やまうらきよまろ
山浦清麿
吉川 英治
「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页
六
はやく、師匠にこれを』
『いや、お次には、平常に話してある。決して、おれに義理立てなどするなよ。二人で逃げろ、きれいな仲の三人だ。生きてゆく先で、よく心と心で話してみるがいい、……お次には、おれから云ってある事がある』
みりっと、寺の藪で、生木の踏み折れるような響きがした。清麿は、二人を門の外へ突き出して、内から棒をかってしまった。
六
大地が号泣するように、門の外に、それからも、暫く嗚咽の声がしていた。
清麿は、よろぼいながら、雪隠の横の縁側から這いあがった。
御先祖と、神棚のある部屋まで、這って行こうとするらしい。
だが、緑青の毒素は、もう血の中を駆けまわっていた。がばっと、縁に、首を垂れてしまった。
――一瞬。
清麿は、あらゆる苦痛が、体じゅうから解ぐれるような心地した。然し、意識はその体を、もう動かそうともしない。
板の間へくッつけている彼の顔は、にやりと微笑したようだった。耳には遠く千曲川の水音でも聞えているらしい。きれいな小禽の音すらありありとそこらにする。
(……いいよ、いいよ。何も、謝まることはない。そなたは、わしの子ではないか)
ぼっと、虹の環のような中に、母の顔が見えた。