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やまうらきよまろ
山浦清麿
吉川 英治
「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页
昔ながらの温いお管の顔である。
(不孝? ……いいえ、おまえが独りで苦んでいるんだよ。わたしは、おまえに乳をあげた土ですよ。咲いた花が悪かったら、わたしという土が悪かったことになる。だのに、そなたは、天子様の赤子として、恥ない華を持ったじゃないか)
兄が側で、頷いている。嬉々として、梅作が小さい掌をひらいている、――淋しげではあるが、お咲の顔も、自分をゆるすかのような眸で、凝と見ている。
萬象、あらゆる物が、その霧の中では生きている。見たこともない白髪の老人などが、飄として、横ぎってゆく。――御先祖様かも知れない。と清麿の、意識ともつかない不思議な意識がふと思う。
恩人の柘植嘉兵衛と、窪田清音とが、破顔している。それでいいのだと云っているように。
――直胤、直胤、直胤。
と、彼の霧の意識はさがしたが、どこにも見えない。虫けらのように見えない。
ばりばりッ!
これは、現実の物音である。
垣を破って、捕手は、雪崩れこんで来た。
『あっ、戸が開いている! 風を喰らって、逃げたぞ』
清麿の俯ッ伏しているすぐ側で、こう呶鳴りながら、捕手たちは、彼を見出さずに、家の周りを、暴風雨のように駈け繞り初めた。