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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

「いよいよ、あすの真昼間、午後一時からはじめます。見のがさないようにしてください。それから、お宅の中の人物配置をまちがいなく手配しておいてください。わかりましたね」

相手は同じことを三度くり返して、電話を切った。

その翌日、毛利氏は二階座敷の障子と、ガラス戸を一枚だけひらき、わざと縁側の籐イスを避けて、座敷の中の紫檀の卓に座ぶとんを置き、それに腰かけて、双眼鏡をのぞいていた。一点の雲もなく、うららかに晴れわたった日であった。一羽のトビが、まるでそのことを予知するように、大空に輪を描いて飛んでいた。

二階の真下の庭園には、庭師の若者と、毛利家のじいやのふたりが、さっきから植木の手入れに余念がなかった。広い二階にはだれもいなかったが、階下には毛利夫人の病室もあり、多くの召し使いがいた。玄関横の四畳半には書生ががんばっていた。台所ではふたりの女中が中食のあとかたづけをしていたし、その外のせんたく場には、別の女中がせんたくをしていた。これがつまり、電話の男がいった邸内の人物配置である。玄関にも裏口にも要所要所に召し使いがいるのだから、毛利氏は人目につかないで外出することは、まったく不可能であった。