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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

「その場所が桁はずれだからです。それに、めったな人には見せられない場所です。五十万円さえ出せば、だれにでも見せるというわけではないのです」

「それにしても、ばくだいな見物料を払うからには、何かの歓楽が得られるのでしょうね」

「むろんです。驚愕と、恐怖と、歓楽とです。この世のほかのものです。想像を絶したものです」

「危険も伴いますか」

「あるいは危険があるかもしれません。つまり、冒険の快味ですね。多少の危険をおかさなくては、最上の歓楽は得られません。あんたは、そういうことがわかるおかただと見て、お誘いするのです。もし、わしの見ちがいでしたら、これでお別れにしましょう」

白ひげの老人は、そういって、席を立ちそうにした。これも高級ポンピキのかけひきの一つなのであろう。

「よろしい。あすの晩、五十万円を持ってきましょう。何時にどこへ行けばいいのですか」

「ふうん、さすがにわかりが早いですね。こんなに早く決心をしたお客さんははじめてです……場所はこのバーにしましょう。時間は午後の九時です」

そして、翌日の午後九時ごろ、ふたりは同じバーで落ちあった。

殿村が千円札で五十万円の束をさし出すと、老人はそれをちょっと調べて、すぐ返した。