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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

かれらは盗賊のまやかし術から出発して、戦国武将のもとになくてかなわぬ存在となり、くふうと修練を重ねて、巧みな技術を編み出していた。速水の隠身術は、いわばこれを近代化したものであった。

かれのくふうの一つに、色メリヤスのシャツとズボンがあった。ごく薄手の弾力のあるメリヤス地を、ネズミ、黄、茶、赤、黒など各種の色に染めて、常に身辺に用意していた。たとえば、夕がたの薄やみを利用して行動する場合には、ぴったり身についたネズミ色のシャツとズボンを着用した。シャツのそでの先はそのまま手袋になっていたし、ズボンのすそはそのままくつ下につづいていた。それを着用すれば、首から上をのぞいた全身が、夕やみ色のネズミ一色になった。場合によっては、同じ色の覆面を、頭からすっぽりかぶることもあった。目と口に小さな穴のあいた袋である。それがメリヤスの弾力でぴったり顔にくっつくようになっていた。

黄色い壁や茶色の壁の日本建築にはいるときには、黄色や茶色のシャツを着るし、赤いカーテンのまえでは赤いシャツに着替え、森の中では濃緑のシャツ、くらやみには黒のシャツというわけであった。

忍術では、やみ夜にはまっくろな衣装よりは、かわいた血のようなどす黒い赤が最も目に見えないと言い伝えられているが、速水はむろん、そういうどす黒い赤のシャツも用意し