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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
おそらく、皮膚が破れて、血が流れたことであろう。額からほおにかけて、一面に黒くなっているのが、かすかにながめられた。
狂人川波は、次に女の首に近づいた。やっぱりヘビのようにぶきみに首をのばして、顔と顔とがくっつくばかりにした。
それを、うしろから、半面黒あざになった男の首がにらんでいた。今は目を飛び出すほどもひらいて、憎悪に燃えてにらんでいた。その眼球が血を吹いて、サッと川波の首筋へ飛びついていくかと怪しまれた。
「やい、美与子、虫も殺さぬ顔をしてやがって、よくもおれを裏切ったな。昔からいう憎さが百倍というやつだ。もう未練はない。ちっともないぞ。ウフ、泣いてるな。まるで、噴水のように涙がわき出るぞ、いい気味だ。やい、その目はなんだ。いまさら哀願するのか。おれに媚を売るのか。売女め。うん、きさまが泣くとかわいい顔になる。どうだ、接吻してやろうか。そこにいる男の目の前で、熱烈な接吻というのをしてやろうか。きさま、それにこたえるか」
狂人の顔が女の首に密着した。両手をついて、地面に腹ばいになって、ほんとうに巨大なヘビのかっこうで、女のくちびるをむさぼった。