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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
「ほっといてくれ。おれは人外なんだ。人外とは、人間でないということだ。おまえさんにゃわかるまい」
その声が何かしら惨澹たる哀調をおびていたので、速水はふと、この五十男を探求してみる気になった。むろん、このぼろ男は、こじきとまでいわれているのだから、ゆすりの種にはならない。だが、速水荘吉は常にゆすりのためにのみ動いているわけではなかった。
かれはぼろ男の腕をかかえて歩きだした。重い荷物だった。酔いつぶれたぼろ男は、自分で歩く力はなく、全身の重みでよりかかってきた。悪酒のにおいと異様な体臭がムンムン鼻をうった。
ブラック・マーケットを通りぬけて、表通りに出ると、やや広い大衆酒場があった。速水はぼろ男をつれて、その店の片すみの床几に腰をおろした。
「何か飲むか」
「チューといこう。チューだ、チューだ」
ボロ男が回らぬ舌で注文した。速水はよごれたエプロンの男ボーイに、焼酎と日本酒を持ってくるように命じた。
コップが来ると、ぼろ男はがつがつと口をつけて、よだれをたらしながら、一気に半分ほど飲んだ。そして、残りの半分の液体をじっと見つめていたが、やがて、赤く充血した目がなんとなくいきいきしてきた。