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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
男は、「しばらくお待ちください」といって、ドアをしめて出ていってしまった。
なんとなく異様なへやであった。広さは六畳ぐらい。まんなかに小さな丸テーブルと、そまつなイスが二脚置いてあるばかりで、飾りだなも何もない殺風景な小べやだった。窓というものが一つもないので、昼間でも電灯がついていた。四方とも壁にかこまれていて、それにけばけばしい花模様の壁紙がはりめぐらしてある。へや全体はひどく古めかしいのに、この壁紙だけが新しいのが、妙に不調和だった。
いつまで待っても、だれもやって来ない。さっきの男は、いったいどうしたのだろう。速水荘吉はどこにいるのだ。ふたりはだんだん不安になってきた。
昌吉がドアのところへ行って、ひらこうとした。だが、いくらノッブをまわし、ガチャガチャやっても、ドアはひらかない。
「外からカギがかかっている」
かれは美与子を振り返ってつぶやいた。顔色がまっさおになっている。
「だれかいませんか。ここをあけてください。速水さんはどこにいるのです」
どなりながら、ドアを乱打した。しかし、なんの反応もない。家の中はひっそりと静まりかえっている。いよいよただごとでない。