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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

「おれは人殺しのブローカーだよ」

「エッ、なんだって?」

「人殺し請負業さ。わかったかね」

「それじゃ、きさま、川波良斎に頼まれたというのか」

「だれに頼まれたかはいえない。営業上の秘密だよ。いま川波良斎とかいったな。そんな人は知らないよ。聞いたこともないよ」

そのとき、美与子が昌吉のそでを引いた。ふりむくと、彼女のおびえた目が、ドアの側の壁の天井に近いところを見つめている。昌吉もその視線を追った。今まで少しも気づかなかったが、その壁の上部に、一尺四方ぐらいの小さな窓があった。窓といっても通風のためのものではなくて、厚いガラス板がはめこんである。ひらかない窓だ。

その四角なガラスの向こうに、何かもやもやとうごめいていた。よく見ると、人間の顔であった。見知らぬ中年男の顔であった。それが薄気味わるくニヤニヤと笑っていた。昌吉はその顔を下からにらみつけて、

「おい、きみはぼくたちをどうしようというのだ?」

すると、ガラスの向こうの男の口がモグモグ動いた。そして、見当ちがいのラウドスピーカーから、いやらしい、しわがれ声が聞こえてきた。

「それが聞きたいかね。よろしい、聞かせてやろう。